薬機法の課徴金制度を再確認! ~自社の取り扱う商品は対象になりますか?~
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1 薬機法の課徴金制度等が施行開始
ご承知のように先般、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(以下「薬機法」といいます。)が改正され、令和3年8月1日から、医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器または再生医療等製品の「名称、製造方法、効能、効果または性能」に関する虚偽・誇大広告(薬機法66条)を行った者に対し、対象商品の売上(最大3年間)の4.5%の課徴金が課される制度が始まっています。
また、同時に、上記の虚偽・誇大広告を行った者に対し、その行為の中止命令、再発防止措置の実施やそれらの実施に関連する公示などの措置命令が出される制度も始まっています(従来は、薬機法68条の未承認薬広告に対する中止命令のみが定められていました。)。
これらの行政処分が行われると、企業としての社会的信用やイメージも損なわれ、対象商品の販売中止・回収というリスクも生じ得ますから、医薬品等の製造販売業者及び販売業者、広告主だけでなく、広告代理店、テレビ局や新聞社・雑誌社、アフィリエイターを含む広告に関与する全ての人が、自社の広告や表示物の再確認の必要に迫られています。
2 課徴金制度(虚偽・誇大広告)の対象商品になり得るか
薬機法66~68条に関しては、厚生労働省から医薬品等適正広告基準が出されており(平成29年9月29日改正のものが最新。同日付で解説及び留意事項も出されており、以下併せて「広告基準」といいます。)、また平成30年8月8日には「医薬品等広告に係る適正な監視指導について(Q&A)」が出されています。
どういった商品がこの規制対象となるのでしょうか。
⑴ 医薬品・再生医療等製品とは
医薬品とは、疾病の診断・治療・予防に用いるためのもの、または身体の構造・機能に影響を及ぼすためのものをいいます。医療用医薬品(原則として医師等による処方箋や指示が必要なもの)とOTC医薬品(需要者自身の選択によって薬局やドラッグストアで購入できるもの)に分けられます。
再生医療等製品とは、疾病の治療・予防あるいは身体の構造・機能の再建・修復・形成のために人・動物の細胞に培養等の加工を施したものや、遺伝子治療を目的として人・動物の細胞に導入して使用するものをいいます。
医療用医薬品や再生医療等製品については、薬機法67条及び広告基準によって、医薬関係者以外の一般人への広告はそもそも禁止されていますが、医薬関係者に対して、たとえば特定の医薬品等の有効性・安全性が確実であると保証するような表現がなされると、虚偽・誇大広告となります。
医療用医薬品については、業界団体(日本製薬工業協会、日本ジェネリック製薬協会)の自主規制もありますから、よく確認して遵守する必要があるでしょう(遵守していれば、課徴金が課されるようなことにはならないでしょう。)。
OTC医薬品については、市場で販売されている競合商品と差別化を図って一般消費者の購入意欲を昂進させるため、新聞・雑誌やテレビCM、インターネット等で幅広く広告がされます。薬機法や広告基準に沿った内容にする必要があるほか、OTC医薬品の広告についても業界団体(日本一般用医薬品連合会)による詳細な自主規制がありますので、よく確認して遵守すべきでしょう(OTC医薬品等の適正広告ガイドライン2019年版が最新ですが、2021年に一部変更等があるのでご留意ください。)。
⑵ 医薬部外品・化粧品とは
医薬部外品とは、①安全性や有効性等の試験をクリアした有効成分(吐きけ等の不快感や口臭・体臭、あせも・ただれ、脱毛等の防止や育毛・除毛のために効能効果があると認められたもの)が配合されていて、人体に対する作用が緩和なものや、②人・動物の保健のための殺虫剤や殺鼠剤、③本来であれば「医薬品」の定義にあたるものの、人体に対する作用が緩和なため、染毛剤・パーマ剤や、生理処理用品、浴用剤、薬用化粧品(石けんや化粧水、美容液、シャンプー・リンス等)・薬用歯磨き、ビタミン剤やカルシウム剤など厚生労働省が指定したもの1をいいます。
一方、化粧品とは、人の身体を清潔にし、美化し、魅力を増し、容貌を変え、皮膚・毛髪を健やかに保つために用いられるものです。化粧品の効能効果として広告できるのは、たとえば「日やけを防ぐ。」「日やけによるシミ・ソバカスを防ぐ。」等の56項目の効能2と、「メーキャップ効果(シミ・ソバカスを隠して肌を白く見せる、等)」「使用感(爽快にする、等)」に限られています。
上で出てきた「薬用化粧品」「薬用歯磨き」は、化粧品としての効能のほかに、医薬部外品として配合されている有効成分によって当局に承認された当該商品の効能の範囲内であれば、たとえば「メラニンの生成を抑え、シミ・ソバカスを防ぐ」という表現も認められるということになります。
しかし、既にできているシミ・ソバカスがなくなったり(=治療を意味する)、「シミ・ソバカスの出来にくい肌に」という肌質改善を暗示させたりする表現にすることはできません。このように医薬部外品や化粧品として認められている効能効果の範囲を逸脱した広告は、虚偽・誇大広告として課徴金制度の対象となりますので、留意が必要です。
医薬部外品や化粧品は、スーパーマーケットやコンビニエンスストア、ホームセンターのような小売店でも販売できるほか、通信販売方式の拡大などもあり、虚偽・誇大広告が目に付くようになってきていると言われています。薬機法や広告基準を遵守するほか、業界団体(日本化粧品工業連合会)の自主規制(化粧品等の適正広告ガイドライン2020年版が最新です。)をよく確認する必要があります。
⑶ 医療機器とは
医療機器とは、疾病の診断・治療・予防に用いる目的、または身体の構造・機能に影響を及ぼす目的の機械器具等(再生医療等製品を除く)で、政令で定めるものとされているので、政令で定められていない場合(例:マスク等)は、医療機器に該当しません。
最近は、特定のプログラムをインストール等することによって汎用コンピュータや携帯情報端末等に医療機器としての機能を与え、または特定のプログラムを有体物である医療機器と組み合わせて上記目的に用いることで、意図したとおりに機能しない場合に患者(または使用者)の生命及び健康に影響を与えるおそれがあるプログラムは、医療機器に該当するという判断が注目されています3。
医療機器については、薬機法や広告基準のほか、業界団体である日本医療機器産業連合会が自主規制(医療機器適正広告ガイド集や医療機器の広告に関するQ&Aなど)を出しています。また、医療機器の効能・使用方法や利害状況の多様性から、取扱製品や業態に応じた多数の業界団体(日本医療機器産業連合会の正会員、という位置付けになります。)が各々自主規制を設けていますので、その確認が必要になります。
たとえば、家庭向け医療機器については、業界団体(日本ホームヘルス機器協会)が自主規制(家庭向け医療機器等適正広告・表示ガイドⅣ)を出しています。医療機器に該当しないようなホームヘルス機器については、同じく自主規制(家庭向け美容・健康関連機器適正広告表示ガイド)を出しています。これらの効果及び安全性を表現する場合に、薬機法で認められる医薬品や医療機器としての効能効果をうたってしまうと(実際にそのような効能効果があるか否かを問わず)薬機法が適用されることになりますので、広告が虚偽・誇大であると課徴金制度の対象になり得ます(そもそも、薬機法68条の未承認薬広告の禁止に反し、改正薬機法の措置命令の対象になります。)。
⑷ 健康食品はどうか?
健康食品については、薬機法の対象になっていないので、課徴金制度の対象外と考えて良いのでしょうか?
健康食品の中でも、特定保健用食品(いわゆる「トクホ」)・栄養機能食品・機能性表示食品については、国が定めた安全性や有効性に関する基準などに従って食品の機能が表示されますが(「おなかの調子を整えます」「脂肪の吸収をおだやかにします」など)、医薬品のように疾病の治療・予防のために摂取するものではありません。ですが、健康食品について「特定の疾病の治療・予防に用いるため」という目的をうたって販売してしまうと、(実際にそのような疾病の治療・予防効果があるか否かを問わず)薬機法上の「医薬品」の定義に当てはまることになります。
そうすると、健康食品についての広告が虚偽・誇大である場合も、課徴金制度の対象になり得ます(そもそも、薬機法68条の未承認薬広告の禁止に反し、改正薬機法の措置命令の対象になります。)。
本来の薬機法の規制対象ではない健康食品業界においても、今回の改正はインパクトを与える可能性がありますので、今後の当局の動向を注視したいと思います。
3 景表法違反との関係は
⑴ 薬機法だけでなく、景表法の適用もある
商品・役務の品質・規格その他の内容について、一般消費者に対し著しく優良であると誤認させる表示を行うと、不当景品類及び不当表示防止法(以下「景表法」といいます。)に違反します。医薬品等の効能、効果または性能に関する虚偽・誇大広告となる場合の多くは、景表法でいうところの「商品の品質・規格についての優良誤認表示」にもあたると考えられます。
しかし、景表法の場合は、商品の供給者(広告主)しか対象でないのに対し、薬機法の場合は前述のように、広告代理店や広告媒体等、広く対象者に含まれますので、注意が必要です。
⑵ 景表法違反の場合にも課徴金制度がある
従来から、景表法違反の場合にも課徴金制度がありましたが、薬機法で新たに設けられた課徴金制度は、①課徴金算定率が高い、②対象者の主観による免除規定がない、③返金しても課徴金の減額がない、等の点で加重されており、より厳しい処置がとられることになるといえます。
ただし、景表法による課徴金が課された場合等は、課徴金額の調整規定によって差し引かれることになっています。
- 厚生労働大臣が指定する医薬部外品リスト
https://www.mhlw.go.jp/content/000500888.pdf - 薬食発0721第1号 平成23年7月21日 厚生労働省医薬食品局長 化粧品の効能の範囲の改正について https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11120000-Iyakushokuhinkyoku/kesyouhin_hanni_20111.pdf
- 厚生労働省ウェブサイト「医療機器プログラムについて」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000179749_00004.html