サクッと読めるアメリカ法の実務【第3回】 『情報開示請求の”裏ワザ” ~アメリカ連邦制度を利用した情報開示 実践編』
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前々回のコラム(『情報開示請求の”裏ワザ” ~アメリカ連邦制度を利用した情報開示 基礎編』)では、アメリカのディスカバリーを利用した情報開示の概要やメリットについてお話をしました。今回は、もう少しつっこんで制度の中身のお話をしていきましょう。
1 ディスカバリー制度に基づく情報開示の申立要件
ディスカバリー制度に基づく情報開示が有用であるということは既にご説明したとおりですが、裁判所の命令の発令を促す手続ですから、無条件、ということではありません。基本的に次の4つの要素を総合考慮し、裁判所が発令することが妥当と判断すれば、命令が出されることになります。
⑴ 開示の請求先が日本で予定されている裁判の当事者ではないこと
⑵ 日本の裁判所がアメリカの司法共助を受け入れていること
⑶ ディスカバリー制度に基づく情報開示について日本法の潜脱にならないこと
⑷ 開示の請求が日本での裁判遂行のために必要最小限度の範囲に限定されていること(開示の範囲が妥当であること)
このうち、⑴~⑶の要素を満たすことはさほど難しいことではありません。通常、開示の請求先は権利侵害の主体ではなく、単に情報を保持しているだけですから、⑴はクリアしますし、⑵については、過去の裁判例からも日本の裁判所がアメリカの司法共助を受け入れていることは明白です。また、日本では民事事件の証拠採用についてはかなり緩やかに広く認める運用ですから、⑶がひっかかるケースはあまりないと思います。
問題になってくるのが⑷で、裁判所に対して、なぜディスカバリー制度によって、開示対象と主張している情報を被開示請求者から開示してもらうことが必要なのか、という点を丁寧に説明していく必要があります。具体的にいうと、権利侵害が存在し、権利侵害者に対し、請求を行うためには被開示請求者が保有する情報が必要不可欠であることを説得的に説明する必要があります。
例えば、SNSの投稿について、プラットフォーム運営者へIPアドレスの開示を求める場合には、SNSの投稿が日本において、権利侵害を構成し、開示請求者がその権利侵害を回復する権利を有していること、IPアドレスが開示されない限り、そもそも当事者を特定できず、訴訟提起が不可能であること等を説明していくことになります。
2 被開示請求者からの異議申立て
晴れて裁判所が申立てを認める決定を出した場合でも、必ずしも手続が終わるわけではありません。被開示請求者からこの決定に対して、異議を申し立てられる場合があります。典型的には、SNSのプラットフォーム運営者から、この決定が表現の自由を侵害するものであり、裁判所が決定を出すにあたり、表現の自由という観点からの検討が十分になされていない、という主張です。
これに対しては、当該プラットフォームに対して、表現の自由を侵害する申立てではないことを説明し、開示を促すことになります。それでも開示を受けられない場合には、さらにMotion to Compel(決定に従うことを求める申立て)等を行う必要があり、その場合には実際に開示を受けられるまでさらに時間を要する、ということになります。
3 それでも有用なディスカバリー制度
このように裁判所にディスカバリー制度による情報開示を認めてもらうためには一定の要件を満たす必要がありますし、場合によってはさらなるステップ(Motion)を踏む必要があり、常にスムーズに申立てが認められるわけではありません。しかしながら、前回に説明したようなメリット(守備範囲の広さ、開示の早さ)を考えると、なおも有用な手続ということができるでしょう。