選挙違反にご注意を・・・
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1 はじめに
本記事を執筆しているのは、令和3年10月中旬です。与党である自民党の総裁も決まり、衆議院が解散されてから、街頭演説が聞こえてきたり、選挙カーを見かけるようになりました。弊事務所のコラムをご覧いただいている方々の中には、選挙に関心のある方もいらっしゃるかと思います。今回のコラムでは、公職選挙法(以下「公選法」といいます。)違反となる代表的な事例を抜粋してご紹介しようと思います。
※ 本コラムの内容は、令和3年10月18日現在の法制度を前提としています。
2 憲法の規律
まず、日本の選挙制度の基本原理を確認します。
憲法では、以下の原理が定められています。
- 普通選挙
納税額・性別等を選挙権の要件にしない。なお、憲法第44条は、選挙権のみならず被選挙権に関しても、資格の平等を定めています。 - 平等選挙
一人一票を原則とする。選挙権の“数”的平等にとどまらず、投票“価値”の平等も要請されていると考えられています。 - 自由選挙
自由投票。投票を棄権しても制裁等の不利益を受けないこと。 - 秘密選挙
誰に投票したかを秘密にし、選挙人の選択の自由を確保する。 - 直接選挙
選挙人が直接議員を選出する。
いずれも1度は耳にしたことがある言葉ではないでしょうか。次項でご紹介するものを含め、公選法の規制を受ける行為は、上記I~Vのいずれか又は複数の原理を脅かす可能性のあるものであるといえそうです。
3 公選法による規制
それでは、公選法によって規制される行為の一部をご紹介したいと思います。
- 事前運動の禁止選挙運動(特定の選挙について、特定の候補者の当選を目的として、投票を得又は得させるために直接又は間接に必要かつ有利な行為)は、選挙の期日の公示または告示日から選挙の期日の前日、すなわち投票日の前日までしか行えません。基本的に立候補は公示(告示)日の午前8時30分から午後5時までしかできませんので、立候補した日の前日以前は選挙運動ができません。また、投票日当日以後の選挙運動も禁止されています。
- 一般有権者による電子メールを利用した選挙運動の禁止インターネットが広く普及したことに伴い、平成25年の公選法の改正によって、選挙期間中のインターネット(ウェブサイト)を利用した選挙運動が解禁されました。このため、一般有権者、候補者ともにホームページやブログ、SNS(Facebook、Twitter等)を利用した選挙運動をすることができます。もっとも、現在も、一般有権者が電子メールを利用した選挙運動を行うことは禁止されています。なお、FacebookやLINE等のユーザー間でやり取りするメッセージ機能の利用は「電子メール」を利用するものではないとされ、禁止されていません。また、候補者や政党は、電子メールを利用して選挙運動をすることも禁止されていません。
- 満18歳未満の者の選挙運動の禁止平成27年の公選法の改正によって、選挙権年齢が「満20歳以上」から「満18歳以上」に引き下げられました。同時に、選挙運動ができない年齢も「満18歳未満」に引き下げられました。現在、満18歳未満の者の選挙運動は一切禁止されていますので、満18歳未満の方は、街頭演説やビラの配布ができないだけでなく、インターネット、例えばFacebookやTwitter等のSNSに「今回の選挙では、○○さんを当選させよう。」等と書き込むこともできません。
- 戸別訪問の禁止戸別訪問を字義どおりに捉えると、一軒一軒訪ねて回ることです。これを踏まえると、公選法138条で禁止される「戸別訪問」とは、投票を依頼し、あるいは投票しないように依頼する目的で、2戸以上の有権者宅を訪問すること、となるでしょう。有権者の居宅だけでなく、会社や工場を訪問する場合も戸別訪問に該当します。また、戸別に、演説会の開催や演説を行うとの告知をする行為等も戸別訪問の一種の脱法行為となるため、戸別訪問類似の行為として禁止されています。もっとも、選挙運動を依頼する目的や選挙情勢の調査の目的で訪問することは、戸別訪問には該当しません。また、投票を依頼する目的なしに、別の用事で有権者宅を訪問した際に、たまたま選挙の話になったため、特定の候補者への投票を勧めた場合は、戸別訪問とはならないと考えられます。
- 寄附の禁止選挙期間か否かにかかわらず、候補者、候補者となろうとする者(立候補の意思を有している者、客観的に立候補の意思を有していると認められる者)、現職の議員等公職にある者(以下まとめて「候補者等」といいます。)は、親族に対してする等の特定の場合を除き、その選挙区内にある者に対して寄附をすることが禁止されています。ここにいう「寄附」には、金銭や物品その他の財産上の利益を実際に供与又は交付することに加え、供与又は交付の約束をすることが含まれます。また、「選挙区内にある者」とは、寄附を受ける者が選挙権を有するかどうかにかかわらず、また、その区域内に住所・居所を有する者だけに限られず、一時的な滞在者も該当するほか、区域内の法人や各種団体、同好会も含まれます。さらに、候補者等が、自ら進んで寄附を行う場合だけでなく、有権者が候補者等に対して寄附をするよう要求することも禁止されています。なお、候補者等が金銭を交付する場合であっても、それが債務の履行としてなされる場合は、「寄附」には該当しません。ただし、候補者等が受けたサービスの対価として不相当に高額な支払いをした場合、「寄附」であると認定される可能性があります。
4 おわりに
本コラムで取り上げた公選法上の禁止行為について、どのように思われたでしょうか。「すでに知っていた。」というものもあれば、「意外だ。」と思われたものもあったかもしれません。選挙違反となる行為について興味を持たれた方は、総務省や各地方自治体のホームページを調べてみたり、選挙に関する報道を気にしてみるのも良いかもしれません。