サクッと読めるアメリカ法の実務【第6回】 DMCAに基づく削除申立と悪用事例への対応
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以前のコラムでは、デジタルミレニアム著作権法(DMCA)に基づく情報開示請求の話をしました。DMCAは著作権侵害が疑われる投稿についての情報開示請求以外にも非常に重要な著作権保護の仕組みを提供しています。それが今回お話しするDMCAに基づくコンテンツの削除申立(DMCA削除申立)です。今回は、その申立の方法と悪用事例への対応策について、説明していきます。
1 DMCA削除申立とは?
DMCAでは、プロバイダーが、権利侵害を主張する者からの通知によって、権利侵害が実際にあるかどうかの判断をせずに、当該情報の削除を行うことによって、削除前に掲載されていたコンテンツについての責任を負わない旨が定められています。これは、Notice and Takedown(通知および削除)という手続で、要するにプロバイダー側は、掲載されている情報が著作権侵害であっても、DMCA削除申立に基づき、削除を行えば、著作権侵害の状態を放置した、というような責任追及から逃れられる、ということです。このような大原則があるため、プロバイダー側は、DMCA削除申立があれば、形式的にコンテンツの削除を認めています。この裏には、日々大量にインターネット上に投稿される著作権侵害のコンテンツに対応するためには、機械的処理をせざるを得ない、という事情があります。
2 DMCA削除申立の方法
Google、Twitter、Instagram、Facebookなど各プラットフォームは、DMCA削除申立のフォームを用意しています。「各サービスの名前 DMCA」等で検索すれば検索結果の上の方に出てくるので、容易に発見できると思います。DMCAの申立てのためには、申請者の名前、メールアドレス、侵害されている著作物の説明、侵害している著作物のURL等を記載する必要があります。削除申立自体はさほど複雑な手続ではなく、特に専門的知識は必要ありませんが、なぜ掲載されている情報が著作権侵害に該当するかについては、詳しく記述する必要があります。
晴れてDMCA削除申立が認められると、各プラットフォーム上から当該コンテンツが見られない状態となります。例えば、Googleですと、検索結果にひっかからなくなり、Twitter、InstagramといったSNSでは、アカウントが凍結された状態になります。
3 DMCA削除申立の悪用事例
このように著作権者からの申立てにより、迅速かつ機械的に著作権侵害コンテンツを凍結することにより、著作権侵害コンテンツの拡散を防ぐという点で機能しているわけですが、一方でこの「迅速かつ機械的な」審査を悪用して、DMCA削除申立を濫用する事例も見受けられます。
具体的な悪用事例は、類似事例の拡散を避けるためにここでは言及しませんが、著作権者を装って、本当の著作権者のコンテンツが著作権侵害コンテンツであると主張し、DMCA削除申立を行うといった事案が見られます。偽のコンテンツと本物のコンテンツを比較すれば、虚偽のDMCA削除申立であることはわかるはずですが、前述の通り、DMCA削除申立の審査は、機械的に行われているため、現状では容易に削除申立が認められてしまいます。実際に「艦隊これくしょん」というゲームの公式Twitterアカウントが虚偽のDMCA削除申立により一時的に凍結される、という事件がありました。これもDMCA削除申立が悪用された事案で、ゲームの公式Twitter側が著作権者であることが明白であるにもかかわらず、アカウントが凍結された事案であり、DMCA削除申立の悪用が容易に行われうるということがよく分かると思います。
4 DMCA削除申立の悪用事例への対応
では、虚偽のDMCA削除申立が行われた場合、どのように対応すればよいのでしょうか。
- 異議申立て
DMCA削除申立が認められた場合でも、異議申立てを行うことができます。通常、各プロバイダーからDMCA削除申立が認められた旨の通知の中に異議申立通知の通知先のメールアドレスやフォームへのリンクが記載されています。この異議申立てには、異議申立人の住所、氏名、連絡先、なぜ著作権侵害に該当しないかの説明を記載する必要があります。著作権侵害に該当しない旨の説明では、ご自身が著作権者であること、当該DMCA削除申立が虚偽であることを主張し、早急なコンテンツの復活を求める必要があります。通常は、DMCA削除申立人に対して、異議申立てに対する反論期間(10日)を与え、その間に異議がなければ、コンテンツが復活することになります。ただ、DMCA削除申立が虚偽であることが明らかな場合には、反論期間を設けず、コンテンツの復活をする場合もあり、この点からも著作権侵害に該当しないことの説明は詳細に記載するのが良いでしょう。 - 個人情報を知られたくない場合には・・・?
異議申立てを行うためには、個人情報を記載する必要があり、この個人情報は、DMCA削除申立人に通知されることになります。虚偽のDMCA削除申立が個人情報の取得を目的として行われているとの指摘もあります。法人などのアカウントであれば特に問題はないと思いますが、個人で公開しているコンテンツ等では、ご自身の個人情報を相手方に知られることには抵抗があると思います。特にこのような虚偽のDMCA削除申立をするような悪意のある相手方に個人情報を与えることになりますからなおさらです。そのような場合には、代理人弁護士を通じた異議申立てを行うことが考えられます。代理人弁護士による異議申立てであれば、代理人弁護士の情報だけで異議申立てをすることができ、ご自身の情報を開示する必要はありません。 - フォームを利用した異議申立てが認められない場合には・・・?
プロバイダー側から提供されるフォームを利用した異議申立てが認められない場合でも、まだ方法はあります。通常、フォームを利用した異議申立てでは記載できる情報に限度があり、添付資料などをつけられない場合もあります。また、異議申立てを受け付ける専用のメールアドレスは、添付ファイルを弾く設定にしている場合があり、十分に背景事情を理解されないまま審査がされている可能性があります。プロバイダー側が提供するフォームを利用した異議申立てが最も簡便な方法ではありますが、より詳しい背景事情を説明するために異議申立書を別途作成し、添付資料をきちんと作成したうえで、当該プロバイダーの審査部署にメール又は郵送で書面を送ることも有効な手段です。通常、審査部署(多くの会社では、DMCA Designated AgentというAgentがDMCAの各種申立ての受け手として指定されています)は米国に所在することから、作成する書面は、英語での申請が望ましいことになります。実際に私が担当した事例(Twitterのアカウントの凍結事案)でも、英語で作成した異議申立書と陳述書その他証拠書類を合わせて、Twitterの米国の担当部署にメールと郵送にて提出したところ、1週間程度で凍結が解除されました。 - 虚偽申立人への損害賠償請求
さらに一歩進んで、このような虚偽のDMCA削除申立を行った者に対して、損害賠償請求をすることが考えられます。虚偽のDMCA削除申立を行った者の特定については、これまでお話ししてきたDMCAに基づく情報開示請求や日本のプロバイダー責任制限法に基づく発信者情報開示を行い、発信者情報を特定したうえで損害賠償をすることは十分に可能です。
5 虚偽のDMCA削除申立の予防策
残念ながら現状では、虚偽のDMCA削除申立自体を防ぐことはできません。ですから、虚偽のDMCA削除申立に対して、異議申立てを行う際に、ご自身が著作権者であることを示す証拠を普段からできる限り、手元に残しておくことが非常に重要になります。
- イラストであれば、イラストにアカウント名やご自身のサインを入れてアップロードする。
- イラストの作成過程がわかる絵(下絵など)や文章のドラフトなどを残しておき、完成品だけでなく、完成に至るドラフトを保有していることが客観的に示せるようにしておく。
- 定期的にご自身のアカウント画面のスクリーンショットを保存しておき、作品がアップロードされた日時や紐づいているアカウントが明確になるようにしておく。
- Wayback Machine(インターネットのデジタルアーカイブ)に定期的にホームページの情報を保存しておく。なお、Wayback Machineは自動でクローリングした情報も保存されているため、ご自身で情報を保存していない場合でも、過去のホームページの情報が残っている可能性がありますから、異議申立ての裏付けとなる証拠が見つかる可能性があります。
DMCA削除申立は著作権者の権利を守る強力なツールですが、一方で著作権者の権利を制限する虚偽申告に利用されるおそれがあり、いわば諸刃の剣といえます。いざというときに、すぐに異議申立てを出せるよう、普段から意識的に自分が著作権者であることを証明できるような証拠を残しておくことが重要になります。