日本人が知らない大麻の話―CBDオイルの適法性―
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前回のコラムでは、アメリカにおける大麻法制の概要を説明しました。現在、日本においては、現行法で取り締まりの対象となっていない「使用罪」の創設が検討されるなど、規制強化の方向に進んでいます。このことからも分かるように我が国の大麻法制は厳しく、今後もこの姿勢はしばらく変わらないと予想されます。一方で、近年では日本国内でもCBDオイル、CBDクリームといった大麻成分由来の美容品や健康食品が流通しており、将来的な市場規模の拡大が見込まれています。日本でなぜ大麻由来の製品の流通が許されているのか、日本の大麻法制を概観しながら、考えてみましょう。
1 そもそも大麻って何?
辞書的な意味での大麻は、麻の葉や花弁から製する麻薬、と定義されていますが、大麻取締法にいう大麻は、もう少し踏み込んで書かれています。大麻取締法上、大麻とは「大麻草(カンナビス・サティバ・エル)及びその製品」のことをいい、「大麻草の成熟した茎及びその製品(樹脂を除く。)並びに大麻草の種子及びその製品を除く」とされています。つまり、大麻草の成熟した茎や種子(発芽しないよう処置されたもの)については、大麻取締法の対象外ということになります。日本の大麻取締法は、「部位規制」といって、大麻製品がどの部位から作られたのかに着目して規制されているのです。
2 THCとCBD
では、大麻草の茎や種子由来の製品であれば、大麻取締法で規制される大麻製品ではなく、所持の適法性や輸入の際の制限がないのかというとそう単純ではありません。日本の大麻法制を知るためには、大麻の主な成分を知る必要があります。大麻草には主にCBD(カンナビジオール)とTHC(テトラヒドロカンナビノール)と呼ばれる成分が含まれています。いずれも構造が類似している成分ですが、摂取した際の生体の反応が異なります。THCには精神活性作用があるため、摂取者はハイになり、多幸感を得られるといわれています。一方、CBDは、精神活性作用はなく、リラックス効果が得られるといわれています。さらにTHC(厳密にいうとΔ8-THC及びΔ9-THC)は、麻薬及び向精神薬取締法(麻薬取締法)において、麻薬に指定されています。ただし、化学合成由来のもののみが対象であり、大麻草から抽出されたものは対象となっていません。
先ほど、日本の大麻取締法は、「部位規制」であると言いましたが、実態はこのTHCを含んだ製品が「成分規制」されています。なぜこのようなねじれ現象が起きるかといいますと、THCという成分は、葉や花弁に多く含まれており、抽出部位を確認する際にこのTHCの含有量を確認するというのが実務の運用だからです。つまり、日本の大麻法制は法律の文言上は「部位規制」でありながら、実際の取り締まりは「成分規制」で行われているということになります。なお、前述のとおり、THCは、麻薬取締法において、麻薬に指定されていますが、大麻由来のものは除く、とされており、麻薬取締法を根拠として、大麻由来のTHCを取り締まることはできないので、麻薬取締法を根拠として「成分規制」がされているわけではない、と考えるべきでしょう。
3 なぜCBDオイルは適法なのか?
以上を踏まえますと、現行法上、適法な大麻製品とは「大麻草の成熟した茎や種子から精製され、THCを含有しないもの」のみということになります。なぜ日本でCBDオイルの流通が許されているのか、という冒頭の疑問に対しては、「部位規制」と「成分規制」いずれもクリアしたものだから、というのが答えになります。一般的にCBDオイルはリラックス効果を標榜し、成分としてはCBDのみが含有された製品となります。ただし、製品によっては、非常に微量のTHCが含有されていることがあり、部位規制はクリアしているにもかかわらず、微量のTHCが含有されていたことで回収が命じられたり、輸入が許可されない事案が散見されます。
4 CBDオイルの輸入に関する法規制
CBDオイルの日本への輸入について、何らかの法規制はないのか、と相談を受けることが時々あります。CBDオイルを日本に輸入しようと考えたときに、当然、大麻取締法の規制は考えなければなりませんが、考慮すべき法律は、それだけではありません。
- 大麻取締法との関係
CBDオイルが大麻取締法との関係で部位規制・成分規制いずれもクリアする必要があることは、既に見てきた通りです。輸入業者としては、製造過程に成熟した茎及び種子以外が含まれていないことを確認するために製造元から製造工程の写真を取得すること、またTHCが含まれていないことがわかる成分表などの資料を取得し、提出できるように準備しておくことは最低限必要になるでしょう。なお、大麻製品の輸入にあたっては、関東厚生局の事前審査を経る必要がありますが、同審査で「大麻に該当しない」との回答を得た場合でも、後からTHCが検出された場合には「大麻」と判断される可能性があることにも注意が必要です。 - 薬機法との関係
薬機法とは、医薬品や医療機器の品質と有効性・安全性を確保することを目的とし、製造・表示・流通・広告などについて詳細を定めた法律です。薬という人体に極めて影響の大きい製品についての流通過程などに問題がないように特に厳しい規制をかけているのです。仮にCBDオイルが同法に定める「医薬品」に該当するのであれば、同法の厳しい規制を受けることになります。
現時点では、CBDオイルは、厚労省の定める「専ら医薬品として使用される成分本質(原材料)リスト」に掲載されている原材料が含まれる製品には該当せず、日本においては、食品や雑貨というカテゴリーで流通しています。そういう意味では直接的に薬機法の規制に服するわけではありませんが、インターネット上の広告などを見るとかなり危ないと感じるものが散見されます。CBDオイルはその成分の分類上、医薬品という分類にはなりませんが、製品に表示されている使用目的や効果効能などにより、薬機法上の広告規制違反に該当する可能性はあります。例えば、「CBDオイルが高血圧に効く!」とか「不眠症が治った!」といった特定の疾病に効果があるような広告は薬機法に反する可能性がありますから、効能の表記には十分注意すべきでしょう。
- 不当表示防止法(不当景品類及び不当表示防止法)について
これも薬機法の広告規制と同じような話ですが、不当表示防止法に定める「優良誤認表示」にも注意が必要です。例えば、疾病の治療・予防効果が得られるような表示(例:CBDが免疫力を高める!)は避けるべきです。また、消費者が強く関心を寄せる身体への効能(例:CBDオイルをお茶に入れて飲むだけで痩せる!)を標榜することも優良誤認表示とされるおそれがあります。
5 日本の大麻法制の未来は?
現在、厚生労働省において、部位規制と成分規制のねじれ現象を解消すべく、大麻取締法を現在の部位規制から成分規制に改正することが検討されています。これまでは、輸入業者側において製造元が部位規制を遵守していると証明することが非常に難しいという側面がありましたから、この法改正が実現すれば、CBDオイルの輸入の門戸が広がると予想されます。また、医療大麻の解禁についても議論がなされているところですから、今後、どのような法改正がなされるか、引き続き注視したいと思います。