弁護士会会長声明の発出プロセス ~声明の「中の人」は誰なのか?~
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2022年8月26日に、兵庫県弁護士会は安倍元首相の国葬に関し、弁護士会会長名で声明を発出しました。
その内容については賛否両論ありうると思います。その当否はともかくとして、弁護士会会長名による声明が、どのような形で作成されているのかについては一般的に知られていないと思いますので、兵庫県弁護士会での一般的な例を紹介させていただこうと思います。
弁護士会会長名による「声明」は、「会長声明」というように略称されますので、一般的には、「中の人」は会長であり、会長が作成していることが当然である、と思われるかもしれませんが、実際にはそうではありません。
兵庫県弁護士会の例によると、一般的には、各種委員会(憲法問題委員会・人権擁護委員会・子どもの権利委員会・消費者保護委員会・刑事弁護センター・ジェンダーの平等に関する委員会等があります)から、会長・副会長によって構成される役員会に対して、会長声明案が提出され、原則として毎週1回開催される役員会で、提出された会長声明案について検討を行います。各種委員会は、その問題について専門的な知見を持っている弁護士によって構成されており、提出された会長声明案には、その委員会で専門的知見をもって議論された結果が記載されていることがほとんどです。ですので、執行部による検討の結果、大きな修正が必要であり、委員会に差戻しとなる場合を除き、細かな修正をした上で、発出に向けての準備を行うことになります。
発出の最終の過程として、弁護士会に関する様々な重要な事項を審議する合議体である常議員会に議案として上程されます。上程された会長声明案は、常議員会において議案として審議され、賛成多数の決議によって可決されて、初めて執行部により弁護士会会長名で、会長声明として正式に発出されることになります(常議員会が1か月に1度しか開催されないため、常議員会への上程・賛成決議を待っていては時機を逸する等、緊急場合は、例外的に事前に常議員に意見聴取を行った上で、賛成意見が多数であることを確認した上で、事後承認の議案として提出されることもあります。)。常議員会は多数の弁護士によって構成されていますので、上記の審議においては様々な意見が出されることもあり、少数ではありますが、これによって会長声明案が執行部・委員会に差し戻されたり、修正されたりすることもあります。
以上のように、弁護士会会長声明は、各弁護士会で定められている会則等に従い、会としての意思決定の手続を経ておりますので、その弁護士会の代表者である弁護士会会長名義で発出することになるわけです。
弁護士会会長声明は、会長個人が「好み」で発出しているわけではなく、また、必ずしも、その声明を発出した弁護士会に所属する全員がそのとおりの意見を持っているわけでもありませんので、そのような背景についてご理解をいただければ幸甚に存じます。