マリファナ農家に行った話
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私が1年間LLMで過ごしたバークレーは、ヒッピー文化発祥地と言われています。ダウンタウンバークレー駅に降り立つと酸っぱい独特のマリファナの香りに襲われます。バークレーではマリファナがいたるところで公然と吸われており(ただし公衆の面前でマリファナを吸うことは現在でも違法です)、簡単に“Smoke”や“Dispensary”と掲げられたマリファナ販売所を見つけることができます。
私は、日本で薬物犯罪の弁護を担当する機会も多く、純粋に、なぜアメリカと日本のマリファナに対する法政策が大幅に違うのかという点に興味があったことから、在学中に「マリファナ法」の講義を受講しました。その講義で仲良くなったクラスメイトに誘われ、マリファナ農家を訪問する機会がありましたので、本コラムではその様子をご紹介いたします。
1 日本家屋とマリファナ農家
私が訪問したマリファナ農家は、バークレーから南に進路を取り、サンノゼを超え、車を2時間ほど走らせたサリナスという町にあります。サリナスはバブル最盛期には、日本向けの花の栽培が多く行われていた町ですが、すっかり花の輸出事業は衰退してしまいました。日本式の家屋が、かつてこの町に多くの日系農場があったことを今に伝えています。私が訪れたマリファナ農家もまさに日系農場から土地を買い取り、事業を立ち上げたという農家でした。
我々を迎え入れてくれたマリファナ農園のオーナーは、40代前半の非常にエネルギッシュな男性でした。彼は、メキシコからアメリカに渡り、会社勤めをしたのちに、カリフォルニア州でマリファナが合法化されるにあたり、ライセンスを取得しマリファナ事業を立ち上げたそうです。
2 いざ、マリファナ農園へ
マリファナ農園の入り口には銃で武装をした警備員が24時間監視をしています。農園に入る前には、IDを警備員に見せ、預ける必要があります。これはたとえオーナーであっても例外ではなく、すべての人間の出入りは警備員が管理し、またすべての入り口には監視カメラが設置されています。このような厳重な警備や管理、帳簿の整備については、連邦、市、税務署等がそれぞれ厳しい基準を設けており、毎日いずれかの部署の担当者が監査に来てその対応に追われる日々を送っているようです。
マリファナ農園には整然とマリファナの鉢が並べられ、エリアごとに生育状況、種類などが記載されたパネルがおかれています。栽培施設は非常に整備され、従業員が手際よくそれぞれの作業を行っています。空調なども機械で管理され、まるで工場にいるかのような錯覚に陥りますが、強烈な匂いが、ここがマリファナの栽培施設だと教えてくれます。
この農園では、マリファナの乾燥、瓶詰まで行う施設も備えており、生産から出荷までワンストップで行える施設となっています。この施設内に入る際にも指紋認証が必要なほか、監視カメラも設置されており、極めて厳しいセキュリティと制限の下で行われている事業であるという印象を受けました。
3 マリファナ農園は銀行取引ができない!?
マリファナ農園は、公共団体からの定期的な監査や流通の厳格な管理や重い税金など様々な問題に対応しながら、運営されています。とりわけ、大きな問題とされているのは、マリファナ農園が銀行と取引できない、という点です。以前のコラムでも触れましたが、マリファナの製造・販売については、州法レベルでは合法になっていても、連邦法上は違法となっています。そのため、連邦法の規制のもと業務を行っている銀行は、「連邦法上違法とされているビジネスに対して、銀行のサービスを提供することはできない」として、多くのマリファナ農園が銀行口座を開設することができず、数百万ドルの売り上げを現金で管理するという事態に見舞われています。一部の銀行では、ガイドラインに従うことを条件に取引を行っていたり、マリファナ農園との取引に特化した金融機関が現れるなど、徐々に門戸は開かれつつあるようですが、通常のビジネスと比べると選択肢が少なく、多額の手数料の支払いを強いられている状況のようです。
4 暗躍する違法マリファナ農園
カリフォルニア州でマリファナの使用が全面的に合法化され、栽培・販売も州政府に管理されることにより、完全に違法マリファナ農園が駆逐されたかといえば、そうではありません。今でも多くの違法マリファナ農園が活動を続けています。マリファナ合法化により、マリファナの栽培がすべて管理され、また課税されることになったことから、マリファナの単価が一気に上がりました。違法マリファナ農園は、税金を払わず、本来必要なライセンスも取得しないことから、経費を削減できるため、安価なマリファナを提供できます。いまだにこの安価な違法マリファナを求める層がいるため、違法マリファナ農園が消えることはありません。
また、カリフォルニアでは、毎年のように夏に干ばつに見舞われることから、違法マリファナ農園がタンクローリーで公共の水を大量に盗むという西部劇のような「水泥棒」が社会問題化しています。この水泥棒によって、多くの農家が農業用の水不足に陥っており、州政府もこの問題の対応に苦慮しています。