令和5年4月1日施行の改正民法を用いた不動産の利活用
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1 迫る改正民法の施行
令和3年4月に改正された民法が令和5年4月1日から施行されます。今回の改正は、所有者不明土地問題に対応する法改正等の一環として行われたもので、改正範囲も、相隣関係、共有、財産管理制度、相続など多方面に及んでおります。一見すると、隣人間、共有者間、相続人間の法律問題のように、個人間の法律問題に関係する改正との印象を受けるかもしれません。そのような場面で活用される場面が多いと考えられますが、その中には事業者の事業活動にも活用できる制度も含まれているように思われます。
そこで、本コラムでは、改正民法で新たに導入された所有者不明土地・建物管理人制度が不動産を取得する場面でどのように活用できるのかを、改正の経過を踏まえて紹介したいと思います。
なお、今回の法改正等は、民法だけでなく、不動産登記法の改正や「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」の制定も含んでいます。その全体像を把握するためには、法務省民事局が公表している「令和3年民法・不動産登記法改正、相続土地国庫帰属法のポイント」が有益ですので、必要な方はご覧ください。
2 買いたくても買えない問題
被相続人の相続が開始し、その相続人全員が相続放棄をすると相続人が不在の状態となります。このとき、被相続人に債権者がいると、その債権者は実際に請求できる者がいなくなるため債権回収に支障が生じます。そこで、被相続人の債権者は、家庭裁判所に相続財産管理人の選任を申し立て、相続財産管理人が行う相続財産の清算業務を通じて債権回収を図ることができます。なお、改正民法によって、相続財産管理人の名称は、相続財産管理人の業務の実態が清算業務にあるため、相続財産清算人に変更されることになりました(以下では従前どおり相続財産管理人と表記します)。
このように、相続財産管理人の選任を申し立てる資格は利害関係人に認められており、この利害関係の有無は、何らかの法律上の利害関係が必要であり、事実上の利害関係では足りないと解されてきました。そこで問題となるのは、自らの事業活動のために、被相続人の不動産を取得することを希望する事業者に、法律上の利害関係が認められるかです。
この問題については、契約自由の原則との関係を理解しておく必要があります。契約自由の原則とは、契約を締結するかどうか、誰と契約を締結するかなどを当事者の自由とする私法上の原則です。この考え方によると、不動産の所有者は、当該不動産の購入希望者から売買契約の申込みを受けたからといって、これに応じる義務はありません。そうすると、不動産の取得を希望するというだけでは、法律上の利害関係は認められないことになりそうです。
実際に、不在者財産管理人の選任に関して、利害関係の有無が争われた事案(大分家審昭和49年12月26日家月27巻11号41頁)において、裁判所は、「売買契約は当事者間の自由意思に基づいて行われるものであって、売買の申込みを受けた者は必ずこれに承諾しなければならない義務を負っているものではない」ことを理由に、法律上の利害関係を否定しました。ただし、当該審判例は、申立人が被相続人の不動産を含めた周辺一帯の宅地造成を行っており、被相続人に対する損害賠償の必要性があることを理由に、結論的には法律上の利害関係を認めています。
3 改正民法によって開かれた可能性 ~所有者不明土地・建物管理制度の創設
改正民法では、所有者の不明な土地や建物を適切に管理するため、所有者不明土地・建物管理制度が創設されました。この管理制度は、所有者不明の土地や建物がある場合に、裁判所が選任する所有者不明土地・建物管理人がその管理を行うための制度です。相続財産管理制度のように財産全般を対象とするのではなく、特定の不動産のみを対象とするところに特徴があります。
所有者不明土地・建物管理人が選任されるためには、利害関係人からの申立てが必要となります。どのような範囲で利害関係を認めるかについて、上記2の相続財産管理制度の場合の一致させる考え方もあり得るところですが、所有者不明土地・建物管理制度が設けられた趣旨は、不動産の不適切な管理状態を解消することにあります。この趣旨に反しないのであれば、相続財産管理人の利害関係者と一致させる必然性はなく、柔軟な解釈を採ることも許されそうです。
このような考え方の下、改正民法の法制審議会民法・不動産登記法部会第18回(令和2年9月15日開催・資料43・3頁)での議論においても、次のように説明されており、利害関係人の判断は、法律上の権利義務の有無よりも、適切な管理が実施されるかどうかを重視して行うものと考えられているように見受けられます。
法制審議会民法・不動産登記法部会第18回(令和2年9月15日開催・資料43・3頁)
一般論としていえば、所有者不明土地管理命令の申立権者である利害関係人としては、その土地が適切に管理されないために不利益を被るおそれがある隣接地所有者や、一部の共有者が不明な場合の他の共有者、その土地を取得してより適切な管理をしようとする公共事業の実施者がこれに当たると考えられるほか、民間の買受希望者についても、一律に排除されるものではない。
このように、改正民法の施行後は、事業者が採りうる不動産取得の手段がひとつ増えることになりそうです。具体的には、所有者不明土地・建物管理制度の利害関係の有無は、事業計画や支払能力等の購入計画の具体性や証拠(事業計画書、決算書、融資関係書等)を踏まえて総合的に判断されることになると考えられます。どの程度の具体性が求められるのかは事案の集積を待つほかありませんが、申立ての準備段階から、弁護士等に相談しながら対応するのが無難であろうと思われます。
4 改正民法への期待 ~負動産から富動産へ
我々弁護士は、遺産分割が行われないまま数世代も相続が発生している事案に様々な立場で関与することがあります。このような事案では、相続人が膨大な人数となり、相続人の調査だけでも多大な労力を要し、相続人が判明しても連絡がつかないことも少なからずあります。不動産の利活用が塩漬けになると、将来世代に不動産の処理の労力を押し付けることにもつながりますし、不動産を欲している事業者に事業計画の修正を迫ることにもなりえます。
今回の改正が全国的に問題となっている所有者不明土地問題等の解決のために有効活用され、不動産が「負動産」から「富動産」になることを期待したいところです。