令和4年改正消費者契約法の概要
執筆者
1 はじめに
令和4年5月25日に成立した改正消費者契約法は、一部を除いて、令和5年6月1日に施行されました。そこで、今回のコラムでは、今月施行されたばかりの令和4年改正消費者契約法の概要についてご紹介したいと思います。
2 令和4年改正の主なポイント
契約の一般法である民法は、対等な契約の二当事者を前提に、いわゆる「契約自由の原則」を定めていますが(民法第521条参照)、消費者契約法は、契約当事者となる消費者と事業者との間の情報の質・量の格差や交渉力の格差を考慮して、消費者の利益保護を図ることを目的に(消費者契約法第1条参照)、このような民法の規定を一部修正しています。
具体的には、事業者が不当な勧誘を行ったがゆえに、消費者が誤認等して契約を締結してしまった場合に、当該契約(意思表示)を取り消すことを可能とするもの(「不当勧誘の契約取消権」)、契約の内容に、消費者にとって一方的に不利益な内容の条項が含まれている場合に、契約自体は有効としつつ、当該条項のみを無効とするもの(「不当条項の無効」)といった修正のルールが規定されています。
今回の令和4年改正では、不当勧誘の契約取消権に関し、以下の新たな行為類型が追加されました(令和4年改正消費者契約法第4条第3項)。
① 勧誘することを告げずに退去困難な場所へ同行し勧誘すること(同第3号)
② 威迫する言動を交えて相談の連絡を妨害すること(同第4号)
③ 契約前に目的物の現状を変更し、原状回復を著しく困難にすること(同第9号)
また、不当条項の無効に関しては、いわゆる「サルベージ条項」の無効が新たに追加されました(令和4年改正消費者契約法第8条第3項)。
3 不当勧誘の契約取消権の追加
令和4年改正において新たに追加された行為類型のうち、上記①は、例えば、アンケートに回答してほしいなどと言って、通行人等を雑居ビルの一室に連れていき、その場所で消費者契約の締結を勧誘する場合などが典型例として挙げられます。
また、上記②は、例えば、消費者が事業者に対し、「契約するかどうか親に電話して相談したい」と申し出たにもかかわらず、事業者が「そんなこと自分で決めろ!」などと威迫する言動を交えて電話をさせない場合などが典型例として挙げられます。
令和4年改正消費者契約法の施行により、これらいずれの場合にも、消費者がそのような状況下において消費者契約を締結してしまった場合には、当該契約を取り消すことが可能となります。
しかしながら、例えば、若年成人の消費者トラブル、例えば、大学入学直後の大学生が、先輩から勧誘目的を告げられずに喫茶店に呼び出され、そこで長時間にわたって勧誘を受けた結果、断り切れずに契約してしまったような場合に、果たして喫茶店が「退去困難な場所」といえるのか、あるいは、「親に相談したい」と伝えたところ、「もう成人なのだから自分で判断して決めることが大切だ」などと威迫せず説得するかのように装った場合に、果たして「威迫する言動を交えて」に該当するのか等、実際の適用場面においては要件の充足が困難な場合も予想されるところです。
これらいずれの例も、消費者保護の必要性が高いという点では、問題状況は同じであるように思われますが、令和4年改正法で新たに追加された行為類型はその適用場面が限定されすぎているため、この点は問題が多いとの批判もなされているところです。
なお、上記③の行為類型は、令和4年改正前から、契約前に「義務の内容の全部又は一部を実施し」「原状の回復を著しく困難にすること」という要件を満たした場合に、契約取消権を認めていたところ、これを、契約前に「目的物の現状を変更し」「原状の回復を著しく困難にすること」という要件を満たす場合にも契約取消権を拡大したものです。
4 サルベージ条項の無効
サルベージ条項とは、一定の場合に事業者が負担する責任を限定する規定のうち、責任を限定する範囲を条項上は明らかにせず、免責の範囲が不明確な条項をあえて置くことによって、消費者からの責任追及を回避する根拠とするものをいい、具体的には、「関連法令に反しない限り、事業者の損害賠償責任を免除する」、「法律上許容される場合において、事業者が負担する損害賠償責任の限度額を○円とする」といった規定が例として挙げられます。
このような規定があると、消費者は、そのような責任限定の定めが、関連法令に反するのかどうか、法律上許容されるのかどうか判断がつかず、事業者に対する損害賠償責任の追及を躊躇してしまうケースが考えられます。
そこで、令和4年改正法は、事業者の損害賠償責任の一部を免除する条項のうち、軽過失の場合にのみ適用されることが不明確な条項は無効とすることを新たに規定しました(令和4年改正消費者契約法第8条第3項)。
したがって、令和4年改正法の下では、❶事業者の損害賠償責任を全部免除する条項は無効、❷一部免除する条項のうち、事業者に故意・重過失がある場合にも一部免除とする条項は無効、❸一部免除する条項のうち、軽過失に留まる場合のみ一部免除とする場合であっても、その旨明記していない条項は無効、❹一部免除する条項のうち、軽過失に留まる場合のみ一部免除とする旨明記している条項は有効(例えば、「当社に故意または重大な過失がある場合を除き、当社が負担する損害賠償責任の限度額を○円とする」といった条項など)、と評価されることとなります。
5 おわりに
令和4年改正は、本文中に取り上げた不当勧誘の契約取消権の行為類型の追加、サルベージ条項の無効のほか、事業者の努力義務の追加・拡充が図られるなど、事業者の実務に与える影響も小さくありません。
また、消費者契約法は、平成28年5月、平成30年6月、令和4年5月と近時改正を繰り返しており、令和4年改正法が施行された直後の現時点においても、超高齢化社会の進展やAI等のデジタル化の進展などといった社会経済状況の変化を受けて、すでに有識者による改正の議論が開始されているところです。
事業者としても、令和4年改正の内容に留まらず、今後の改正の動向等についても注視していく必要があろうかと思います。
以 上