令和5年10月から施行されるステマ規制って?
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1 ステマ(ステルスマーケティング)って何?
広告であるにもかかわらず広告であることを隠して、顧客を誘引するための手段として、自己の供給する商品・役務(サービス)の取引に関する事項について行う表示(雑誌、放送、電話、ダイレクトメール、インターネット等によるものを広く含みます。)のことを、ステルスマーケティングといいます。
商品・役務(サービス)を提供する企業自らが広告を行っているにもかかわらず、第三者が行っているかのように誤認させる表示はもちろんのこと、企業がインフルエンサーなど第三者に商品・役務(サービス)の取引に関する表示を行うように依頼する場合も、ステルスマーケティングに該当します。
もう10年ほど前になりますが、芸能人が企業から報酬等を得ていることを隠してSNSに宣伝等の投稿を行っていることが発覚して、社会問題化して以来、この「ステマ」という言葉を耳にするようになった方も多いと思います。
一般消費者は、「事業者の表示」すなわち広告であると認識すれば、表示内容に、ある程度の誇張・誇大が含まれることはあり得ると考え、商品・役務(サービス)を選択する際にそのことを考慮に入れるのが通常です。一方、実際には広告であるにもかかわらず、第三者による表示であると誤認する場合、その表示内容について「ある程度の誇張・誇大が含まれるのではないか?」と疑ったり警戒したりすることができなくなってしまい、一般消費者が商品・役務(サービス)について自主的かつ合理的に選択できなくなるおそれがあります。
2 景品表示法によるステマ規制の概要
このように「ステマ」は、広告であるにもかかわらず広告であることを隠して、中立的な第三者の純粋な感想や口コミと思わせる手段で、自らが供給する商品・役務(サービス)に不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあります。また、広告であることを開示すると消費者の商品に対する好感度を下げ、逆に、広告であることを隠すと商品に対する好感度が上がったり、あるいは不正レビューによって低品質商品の需要が増えたりする結果、一般消費者の高品質商品の購買機会が奪われる結果になります。
そこで、「事業者の表示」すなわち広告であるにもかかわらず、第三者の表示であると一般消費者に誤認される、又は誤認されるおそれがある「ステマ」行為自体を、規制の対象とすべきという議論がされるようになりました。
そして、令和4年12月28日に公表されたステルスマーケティングに関する検討会報告書(以下「ステマ検討会報告書」といいます。)では、下の図のように、不当景品類及び不当表示防止法(以下「景品表示法」といいます。)の5条1号(優良誤認表示)や5条2号(有利誤認表示)に該当する場合は、現行の景品表示法による対応が可能であるものの、いずれにも該当しない場合には現行の景品表示法では対応できないため、景品表示法5条3号の告示に新たに指定すべきとの意見が出されました。
「図 11:ステルスマーケティングに対する景品表示法の適用関係」より
これを受けて、令和5年3月28日、令和5年内閣府告示第19号により、「事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示であって、一般消費者が当該表示であることを判別することが困難であると認められるもの」は不当表示であると指定されました。景品表示法5条で禁止される不当表示を行った事業者に対しては、行為の差止めや一般消費者に生じた誤認を排除するための措置命令がなされます(同法7条1項)。
この施行は令和5年10月1日からとされていますが、過去に行ったSNS投稿等の内容も規制対象に含まれますので、これまでに自己の供給する商品・役務(サービス)をインフルエンサーなど第三者に無償提供した上でSNS投稿等を依頼したことがある場合は、今一度、これら投稿等の内容の確認が必要になります。
また、告示が抽象的な定め方にならざるを得ないことから、事業者の事業活動が不必要に委縮することを防ぎ、事業者の予見可能性を高めるために、消費者庁から運用基準も出されています。
3 ステマ規制の運用基準の考え方とは?
冒頭で言及したように、「ステマ」に該当するのは、①商品・役務(サービス)を提供する企業自らが広告を行っているにもかかわらず、第三者が行っているかのように誤認させる表示をする場合と、②企業がインフルエンサーなど第三者に対して、商品・役務(サービス)の取引に関する表示を行うように依頼しているにもかかわらず、そのことを隠して表示する場合とがあります。
①について、自社の商品・役務を販売促進すべき地位や立場にある者が、販売促進を目的としてSNSに投稿する場合等は、企業自らが広告を行っていると評価されることになるので、注意が必要です。企業の把握していないところで従業員等が行う表示が該当する可能性があるため、SNS利用等に関する社内ルールを策定・見直しする必要があります。
一方、①に該当しない例としては、企業の販売担当者でない者が、自社の商品・役務に関して一般消費者でも知り得る情報を使うなどし、当該商品・役務の販売促進の目的ではない表示を行う場合が挙げられています。例えば、自社の商品を利用した感想等をSNSに投稿する場合等が考えられます。
②については、事業者が第三者の表示内容の決定に関与したと認められる場合、つまり、客観的な状況に基づき、第三者の自主的な意思による表示内容と認められない場合は、事業者自らが広告を行っているのと同様に評価されます。企業が供給する商品・役務(サービス)を第三者に無償提供してPRを依頼する場合は、第三者の自主的な意思による表示内容とは認められにくいでしょう。したがって、「事業者の表示」すなわち広告・宣伝・プロモーション・PR等の表示や、「商品の提供を受けて投稿しています。」といった表示を行わなければならないのです。また、「広告」等の記載をしていても、同時に「これは第三者としての感想を記載しています。」等の記載もあり、結果的にどちらなのか分かりにくい表示になっている場合や、「広告」等の文字が小さくて一般消費者が認識しにくい場合(動画であれば、一般消費者が認識できないほど短い時間しか表示してない場合)などは、広告であることを隠していると評価されるでしょう。
一方、②に該当しない例としては、アフィリエイターの表示であっても、事業者と当該アフィリエイターとの間で当該表示に係る情報のやり取りが直接又は間接的に一切行われていないなど、アフィリエイトプログラムを利用した広告主による広告とは認められない実態にある表示を行う場合等が挙げられています。実際には、どのような場合がセーフで、どのような場合がアウトかの判断は困難を伴うことが多いですので、ご相談いただければと思います。
4 今後の課題とされているもの
(1)課徴金の対象の拡大
景品表示法5条で禁止される不当表示の中でも、同条3号で指定された告示に該当する表示に係るものについては、課徴金制度の対象から除かれています(景品表示法8条1項)。
したがって、ステマ検討会報告書においては、抑止力強化の観点から、ステマ規制に反した場合を含む3号告示に係るものも課徴金制度の対象とするかどうか、将来の検討課題とすべきではないかとの意見も出されました。
(2)規制対象者の拡大
また、以前のコラムでも触れましたが、景品表示法は、商品・役務(サービス)の提供を行う事業者(広告主)しか対象でないため、広告主から依頼を受けて商品・役務(サービス)の取引に関する表示を行うインフルエンサーやアフィリエイター等は規制の対象外となります。
したがって、ステマ検討会報告書においても、ステマ規制の実効性を確保するために、インフルエンサー等にまで規制の対象範囲を拡大できないか景品表示法の見直しも検討すべきとの意見も出されました。
(3)令和5年改正景品表示法
これらの点については、令和5年1月13日に公表された景品表示法検討会報告書においても検討課題に挙げられたものの、結論としては引き続き事態を注視するに留め、中長期的な検討事項とされたことを受け、景品表示法の令和5年5月10日改正の対象とはなりませんでした。
しかし、改正景品表示法の施行(来年11月まで)から5年後には、施行状況について検討の上で必要な措置を講ずることが予定されていますので、再び(1)(2)のような規制対象の拡大についても議論される可能性が高いでしょう。
以上