第210回 中国における新しい外国人就労者ビザのウソとホント
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中国では、2017年の4月から新しい外国人就労者ビザ制度(以下「新制度」といいます。)が施行され、上海でもこの6月から本格的に新制度の施行が始まっているようです。
新制度については、その公表がなされた以降、日本国内において、外国人就労者の排除が始まる、等といった極端な見出しで報道がなされたため、現地に駐在する従業員の方々は、その施行まで戦々恐々としていたようですが、現在のところ、特定の状況を除き、従来の制度と比較して、就労ビザの取得が極端に厳しくなったという情報はなく、基本的には落ち着いた運用がなされているようです。
以下、FAQ方式で、新制度について、よくある疑問点についてお答えしていきたいと思います。
- Q1
新制度の本当の目的はどのようなところにあるのでしょうか?
- A1
建前としては、外国人就労者に対する許可の管理サービスの統一、申請資料の簡素化、審査過程の最適化等が挙げられていますが、実際のところは、不法に在留する外国人の退去が目的であるといわれています。
風聞ですが、近年、アフリカ系の労働者が、就労ビザがないのに中国国内で就労したり、就労ビザが切れた以降も中国国内に在留して就労し続けたりする、という問題が顕在化しているため、この改善を狙って新制度を導入した、という情報もあります。- Q2
新制度においては、オンラインでの申請が前提となっているとお伺いしましたが、本当でしょうか?
- A2
本当です。事前にオンラインで、雇用主(現地法人)の登録を行い、その後、雇用主(現地法人)を通じて、オンラインのシステムにより、必要書類をアップロードして事前の審査を経たのちに、必要書類の原本を所轄の外国専門家局(外専局)の窓口で提出することになります。- Q3
新制度では、人材によってランクが分類されていると聞きましたが、本当でしょうか?
- A3
本当です。新制度では、人材によって、A類(ハイエンド人材)、B類(専門家人材)及びC類(一般人材)に分類されています。
A類の要件を満たす人材は、資料の提出が少量で済む等、優遇措置がありますが、これを満たすような人材は限られますので(例えば世界的な大企業の経営者やアジア部門総責任者、ノーベル賞又はこれに匹敵するような業績を上げた科学者等)、日本から現地法人に派遣される一般的な就労者であれば、B類での申請を目指すことになります。
なお、C類については、現在の情報では、まだ日本企業の現地法人には解放されていないようですので、今後の運用の拡大が待たれます。- Q4
それぞれの類型に定められた要件を教えてください。
- A4
A類では(1)中国国内の人材登用計画に入選した者、(2)国際公認の専門業績認定基準を満たす者、(3)市場の動向に合致した奨励類職位に必要な外国人在、(4)イノベーション人材、(5)優秀な青年人材、(6)(上記に該当しないが)国家が定めるポイント計算表(以下「ポイント表」といいます。)による得点の累計が85点以上である者、が該当します。
B類では(1)学士以上の学位を持ち、かつ、2年以上の関連職歴経験を持ち、その他の要件を満たす者、(2)国際的に通用する職業技能資格証書を持っている者、(3)外国言語の教員、(4)平均給与(※中国で当該就労者の所得税納税の基準となっている給与額)が当該地区の前年度の平均の4倍を下回らない者、(5)国家関連部門が規定する専門人員等、(6)(上記には該当しないが)ポイント表によるポイントの累計が60点以上である者、が該当します。
但しB類にはネガティブ要件もあり、就業者の年齢は、原則として60歳を超えてはならないものとされています。C類は、前述した通り、現在の情報では、まだ日本企業の現地法人には解放されていないようですが、(1)現行の外国人就業規定(旧規定)に適合する者、(2)臨時・短期の職業に従事する外国人、(3)その他職位の割り当て、政府間協議等に基づく場合とされています。
- Q5
新制度においては、ポイント制が導入されており、このポイントを満たさない限り、就労者ビザは一切発給されないのでしょうか?
- A5
ウソです。ポイント制は、いわゆるバスケット条項であり、その他の要件を満たさない場合に初めてポイントが問題となります。例えば、前述した通り、日本から現地法人に派遣される一般的な就労者であれば、B類での申請を目指すことになりますが、Q4で列記したB類の(1)〜(5)に該当する場合は、ポイントのいかんにかかわらず、B類による就労者ビザの取得が可能です。
これら(1)〜(5)に該当しない場合に初めて、ポイント制で60点以上を獲得する必要があることになります。- Q6
ポイント表では、どのような場合に、どのようなポイントが認定されるのでしょうか?
- A6
例えば、(1)学歴について、博士は20点、修士は15点、学士(4年制大学卒業)は10点という得点が付与されていたり、(2)中国国内での収入について、45万元以上は20点、35万元〜45万元は17点、25万元〜35万元は14点、15万元〜25万元は11点、7万元〜15万元は8点、5万元〜7万元は5点、5万元以下は0点という得点が付与されていたり、(3)年齢について、18歳〜25歳が15点、26歳〜45歳が15点、46歳〜55歳が10点、56歳〜60歳が5点、60歳以降は0点という特典が付与されていたり、というように加点方式がとられています(その他にも、HSKのレベルや中国国内における1年のうちの就業月数等、ポイントが付与されている項目があります。)
なお、現状公表されているポイント表は、「暫定版」とされており、公表から施行の間にも一度変更されましたので、今後も随時項目や得点が更新される可能性が高く、注意が必要です。
- Q7
新制度に基づくビザについて、取得に要する期間はどの程度でしょうか?
- A7
新制度では、オンラインでの資料提出後における事前審査は5営業日以内、窓口での原本提出後における本審査は10営業日以内と定められています。これらの審査以外にも、在外公館(又はビザサービスセンター)等での審査期間、その他健康診査等に一定の期間が必要ですから、外国人工作許可証が発行されるまでは、順調に進んで1か月〜2か月前後が見込まれます。
なお、筆者の調査によれば、オンラインでの資料提出後に、資料の補正・追加等の連絡がある場合もあるようで、この場合は、上記の期間に加えて、さらにこれらの資料の補正・追加等に要する期間が必要になります。- Q8
当社の現地法人の工場長は、学歴は高卒で、年齢は60歳を超えており、現地法人からの収入も現地の平均の4倍に到達しません。また、ポイント表の得点累計も60点に到達しないことが明らかです。しかし、現地での勤務歴は長く、現地雇用従業員からの信頼も厚く、工場長なしでは、現地法人は回っていきません。このような場合でも、今後、工場長は就業者ビザを更新することは難しいと聞きましたが、本当でしょうか?
- A8
残念ながら、現状の運用の限りでは本当です。但し、新制度になったことによって、突然、現在派遣されている工場長のビザの更新が認められなくなっては大変ですので、地方によっては、上記のような場合でも更新が認められることがあると聞き及んでおります。
現状、上記の例に該当する又は類似するような場合は、所轄の外専局に問い合わせるしかないと思います。今回のコラムは以上の通りとなります。
冒頭でも申し上げましたが、新制度は施行されて間もないこと、ポイント表も事前公布の段階から施行までの間に1度修正されていること、今後C類が日本企業の現地法人に解放される可能性がゼロではないこと等からすれば、今後の新制度の運用は、一定の流動性を有していると言えます。
また、新制度についてはQ8のような状況もありうることから、日本企業が既に派遣している就労者については、地域によってはかなり緩やかな適用がなされる可能性も否定できません。現に、一部の地域では、年齢が60歳を上回る就労者について、補充資料や上申書の提出によって、(1回限りですが)例外的にB類での更新申請が認められたという例もあるように聞き及んでおります。
従って、Q8の回答でも述べた通り、不明な点があれば、所轄の外専局に個別に質問したり、補正・追加資料の提出を前提として、試験的にオンライン申請を行ったりして試行錯誤し、更に、新制度についての今後の運用を注視していく必要があると思われます。
なお、本コラムは2017年8月時点で筆者が入手した情報を基に作成しております。新制度の施行から日が浅いことから、今後の実務の運用いかんによっては、本コラムと異なる運用がなされる可能性があることをご諒解ください。
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