第215回 限定承認の実務(4) 〜手続の終了〜
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第206回コラムでは,非常に特徴的な換価手続の具体的な方法について述べました。換価手続という大きな山を乗り越えれば,このややこしい手続の終わりも見えてきます,最後に限定承認の終了手続について触れて,限定承認の実務についてのコラムを終わりたいと思います。
- 配当手続財産の換価手続が完了すれば,その換価した財産を配当する手続になります。第202回コラムで触れたとおり,既にこの手続が始まった直後に債権者に対し,債権届出をする旨の官報公告を掲載し,把握している債権者に対しては,債権届出をするように催告書を送付しているはずですから,その債権額は確定しています。当然,換価手続によって形成された財産が届出債権額を上回るのであれば,全額を各債権者に弁済して終了ということになります。一方で届出債権額が財産の額を上回ってしまった場合には,各債権金額にあわせて按分弁済することになります(民法929条)。これが配当手続の大きな流れです。
- 配当手続
(1) 条件付債権等の処理
まず,弁済期に至らない債権であっても,弁済期が到来したものとして,弁済をする必要があります(民法930条1項)。また条件付債権や存続期間の不確定な債権については,家庭裁判所の選任した鑑定人の評価に従って弁済を行うことになります(民法930条2項)。ここでも限定承認名物,鑑定が出てきます。限定承認手続が相続財産の清算手続である以上,条件付きとはいえ,債務を残しての処理は出来ず,弁済時時点での評価に引き直して弁済していくことになります。
(2) 優先権のある債権の処理
優先権(抵当権,先取特権等)のある債権については,同優先権によって保全されている価格の限度による弁済を行うか,またはその優先権の実行を受けるかのいずれかになります。これの優先弁済は,按分弁済に先んじて行われることになります。不動産に設定された抵当権については,先買権の行使による任意売却に伴って,同時に処理されていることが通常であろうと思いますので,注意を要するのは,先取特権や留置権等のある債権の処理になろうかと思います。
(3) 届出のなかった債権
届出期間内に届出のなかった債権については,破産手続における免責のようにチャラになるわけではありません。届出のなかった債権については,「残余財産についてのみその権利の行使を受ける」ことになります(民法935条)。つまり届出のあった債権について,全額弁済をした後に残った財産を上限として弁済をすれば足りるということになります。債権を全額弁済して残った財産が500万円であれば,届出をしなかった債権者からたとえ1億円の請求を受けたとしても,500万円を返済すれば足りるということです。
- 手続の終了手続の終了のために家庭裁判所に対して,終了したことの通知等は特に必要ありません。届出のあった債権に対して,全額を弁済した時点で手続は終了します。後は残った財産を相続人間で分配することになります。残余財産の金額の確定については,届出のなかった債権者からの請求に備えて,しっかりと確定させることが重要となります。
さて,全4回にわたって,限定承認手続の実務についてご紹介してきました。コラムを読んでいただいた皆様は,既にお分かりと思いますが,はっきり言って非常に面倒くさい,複雑な手続です。法的な知識も必要ですし,税務上も特別な課税方法が取られており,そのうえ裁判所が主体的に動いてくれることは全くありません。個人でこの手続をしようと思っても,どうすればよいか分からない,という場面が多いと思います。しかしながら,ある程度の財産があることは確実であるが,潜在的に債務の危険も否定できない,というような相続の場合には一度利用することも検討すべき手続かと思います。もし相続の場面で,単純承認か,相続放棄で悩まれる場面があれば,限定承認という第三の道があることも知っておいていただければと思います。