キリンとサントリーの経営統合?!〜企業結合と独占禁止法〜
執筆者
-
はじめに
2009年7月13日、キリンHDとサントリーHDが経営統合の交渉を進めているとの各種報道がなされたことは、記憶にも新しいことと思います。
仮に経営統合が実現すれば、国内ビール市場ではシェア約5割、飲料についてはシェア約3割となり、統合会社は圧倒的な存在感を示すことになると思われます。
ただ、統合の実現に向けては、様々な懸念材料も挙げられているところであり、そのひとつとして独占禁止法との関係も指摘されています。
M&Aなどに際し、独禁法との関係は、そもそも検討すべきリスクとして認識されていないことすら少なくありません。そこで、今回は企業結合に関し、独占禁止法がどう関係してくるのかについて、簡単に整理してみたいと思います。
-
JALとANAが合併すれば?!〜企業結合規制の目的〜
現在、JALの再建が各種報道でも取り上げられていますが、仮に、JALがANAと合併した場合、航空輸送の市場において競争関係にある両者が結び付くことで、同市場における競争者が減少することとなります。結果、JAL&ANA連合が現在の神戸−札幌間の航空運賃を100万円に改定したとしても、消費者は、他の選択肢がなければ、高いお金を払って飛行機を利用するほかありません。競争者の減少は、かかる弊害(上記は極端な例ですが・・)をもたらしうる要素を含んでいます。
そこで、独禁法の企業結合規制は、基本的には、市場における競争単位の減少を問題とし、規制の網をかぶせることにしています。
-
どういった規制の網をかぶせているのか〜企業結合規制の全体像〜
規制の内容はいたってシンプルであり、「実体規制」と「手続規制」の2つです。
(1) 実体規制とは
実体規制とは、「こういう企業結合はしてはいけません」という実質面での規制です。具体的には、「一定の取引分野(=市場)における競争を実質的に制限することとなる企業結合」が禁止されますが、「一定の取引分野」「競争を実質的に制限」などの概念がそもそも抽象的であることから、予測可能性を確保するため、公正取引委員会がガイドラインを設けています。
(2) 手続規制とは
手続規制とは、「特定の規模以上の企業結合をする場合には、公正取引委員会への事前届出をしてください」という手続上の規制です。
-
企業結合とは??〜独禁法審査の対象となる行為〜
そもそも「企業結合」とは、どういった行為をさすのでしょうか。独禁法は、以下の各行為について、条文を設けています。
株式保有(10条、14条)、役員兼任(13条)、合併(15条)、共同新設分割・吸収分割(15条の2)、事業譲受け等(16条)、共同株式移転(平成21年改正法)
上記2に述べたように、独禁法は、基本的には競争単位の減少を問題とします。例えば、単独の新設分割(会社の一事業部門の分社化)については、新設分割による競争企業同士の結び付きは何ら生じていませんし、競争単位の減少もありません。したがって、企業結合審査の対象からは外されているのです。
-
実体審査のフロー
企業結合ガイドラインによると、実体規制に関する審査は、(1)企業結合規制の対象となるか否かの判断、(2)一定の取引分野の画定、(3)上記(2)で画定した取引分野における競争制限の有無の判断という順を追ってなされます。
詳細をここで説明することは紙幅の都合上できませんが、(2)の一定の取引分野の画定については、仮にカップ麺メーカー同士の企業結合を例にとりますと、カップ麺の市場の範囲に袋麺も含まれるのか、といったことが現実に問題となってきます。この点の判断においては、消費者(需要家)からみた代替性の有無がひとつの指針となります。すなわち、カップ麺の価格が高くなった場合に消費者が別の選択肢として袋麺を手に取るだろうか、といった視点です。仮に、消費者が袋麺を手に取るのであれば、カップ麺と袋麺は競争関係にあると言えますので、カップ麺の市場には、袋麺も含まれることとなります。そして、このようにして画定された市場(即席麺の市場)において、当該企業結合による競争制限効果が生じているか否かが次に判断されることとなるのです(なお、実際の事例では、カップ麺と袋麺はそれぞれ別の市場として画定されました。ご興味のある方は、公正取引委員会のHP〔http://www.jftc.go.jp/ma/jirei2/H18jirei2-01.html〕に公表されていますので参照してみてください)。
-
企業結合計画の立て方
企業結合を実施する場合には、上記に述べた独禁法の実体規制および手続規制に関するリスク分析は必要不可欠です。また、企業結合が純粋な国内企業同士の問題にとどまる場合を除き、外国の競争当局との問題も検討しなければなりません(特に、近時における中国の動向)。
日本においては、公正取引委員会の事前相談制度を利用する例がほとんどですが、事前相談制度の利用に際しては、公表が義務付けられることもあり、プレス・リリースのタイミングとの問題で、そもそも事前相談を利用するか否かという点も、検討を要する事項のひとつです。
以上のように、企業結合に際しては、スケジューリングの早い段階から、独禁法上の企業結合規制への対応についても十分に検討しておく必要があります。
冒頭に述べたキリンとサントリーの事例についても、独禁法上の視点から、今後の展開に注目してみてください。