サクッと読めるアメリカ法の実務【第4回】
『情報開示請求の“裏ワザ” ~DMCAに基づく発信者特定』
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以前に情報開示請求の“裏ワザ”として、米国ディスカバリー制度を利用した情報開示、その具体的な要件についてご紹介しました。近年、インターネット上で様々なコンテンツが無断でコピーされ、公開されていることが問題になっています。漫画村のような海賊版の漫画ビューワーサイトやYouTubeへの映画やアニメなどの投稿が正当な著作権者の権利を侵害し、簡単にアクセスできるという気軽さから、著作権者の頭を悩ましています。著作権侵害に対して、訴訟を提起するには、当然侵害者を特定する必要がありますが、米国ではDMCA(Digital Millennium Copyright Act)に基づく情報開示が認められています。
1 DMCAに基づく情報開示とは?
アメリカの裁判所において、証拠収集の手続きの一環として、「召喚状」(Subpoenaといいます)を発出してもらうことがあります。召喚状を受け取った者は、Depositionという裁判外の証言手続への参加や保有している書類などの提出などに応じなければなりません。裁判における証拠収集手続ですから、本来は訴訟を提起しないと利用できない手続となっています。しかし、DMCAにおいては、特例として、裁判を提起する前にこの召喚状を利用した情報開示手続を行えることが規定されています。
DMCAに基づく開示申立は、著作権者が米国に拠点を有するコンテンツプロバイダーに対し、著作権侵害者の氏名、Email、電話番号、住所、被侵害著作権作品のアップロード時やアカウント開設時のIPアドレスなどの情報を求める手続です。以前に紹介した米国ディスカバリー制度を利用した情報開示(ディスカバリー制度)に類似していますが、DMCAに基づく開示申立は、著作権の侵害が米国のコンテンツプロバイダーを通して行われている場合に利用される制度で、ディスカバリー制度よりも緩やかな要件で認められます。情報の開示が認められるための要件はシンプルで、①コンテンツプロバイダーに対し、著作権侵害に関するコンテンツの削除の要請を行っていること、②当該投稿が著作権者の著作権を侵害していることが要求されます。ディスカバリー制度においては、開示範囲の妥当性や開示が日本法の潜脱にならないのかなどの点について、裁判所の判断にかかる要素がありますが、DMCAに基づく開示申立は、基本的に①の点は、著作権侵害に関する通知の写し、②の点については、著作権者の権利を侵害する旨の(著作権者又は弁護士による)陳述書により容易に立証が可能であり、基本的に書面審査のみで判断されることから、ある程度定型化された手続といえます。
なお、米国に支店を有するコンテンツプロバイダーに対してもDMCAに基づく情報開示申立は行えますが、実際に開示される可能性は低いため、必ずしも効果的な手続きとは言えません。
2 DMCAに基づく情報開示の活用場面
DMCAに基づく情報開示については、多くは出版社や映画の配信会社による利用が考えられます。例えば、出版している漫画や小説などの著作物がBloggerなどの米国のコンテンツプロバイダー上で公開されている場合、また、配信された映像作品が無断でYouTubeなどの米国の映像コンテンツプロバイダーを通して配信されている場合などに、単に削除を求めるだけでなく、その配信者を特定し、損害賠償を請求する、刑事告訴を検討するというのが典型的な場面でしょう。
また、近年はTwitterやPixivなど、個人で著作物を配信するコンテンツも多く、無断でそれらのコンテンツが(米国のコンテンツプロバイダーを通して)配信され、権利が侵害されている場合には、著作権者個人として、DMCAに基づく情報開示を利用することができます。
3 DMCAに基づく情報開示のメリット
DMCAに基づく情報開示のメリットは、開示までが早いということです。これはディスカバリー制度と同じメリットですが、第1項で述べた通り、ある程度定型化された申立であることから、ディスカバリー制度よりも迅速に開示されることが多く、異議申立期間などを考慮しても、2~3か月程度で開示までされることが多いです。また、通常、コンテンツプロバイダーが異議申立てを行うことがない、という点もディスカバリー制度に比べ、最終的な手続の終結が早い理由の一つです。
以前にもご紹介した通り、情報開示請求にあたっては、ディスカバリー制度が強力なツールとなりますが、特に著作権の侵害事案においては、DMCAに基づく情報開示という手段が、迅速かつ簡易であり、情報開示のお助けツールとしては非常に有益だと思います。